中医薬大学全国共通教材
全訳 中医基礎理論
監修 戴毅 翻訳 淺野周
主編 印会河、副主編 張伯訥
編委 李徳新、孟憲民、張珍玉、劉承才、銭承輝、張新春、劉燕池
中国の大学で中医薬教育に使われているテキスト。
この教材のシリーズには、医学古典、中国医学史、中医基礎理論、中医診断学、中薬学、方剤学、内経講義、傷寒論講義、金匱要略講義、温病学、中医各家学説、中医内科学、中医外科学、中医小児科学、中医婦人科学、中医眼科学、中医耳鼻咽喉科学、中医傷科学、鍼灸学、経絡学、腧穴学、刺灸学、鍼灸治療学、鍼灸医籍選、各家鍼灸学説、推拿学、薬用植物学、中薬鑑定学、中薬炮製学、中薬薬剤学、中薬化学、中薬薬理学の32部門ある。
1.諸論
中医学は唯物論的辨証法を思想的基盤とし整体概念が加わったもの。
唯物論的辨証法・・・物質の変化が精神を生み出し、陰陽の両者により変化発展するという考え方
整体概念・・・人体を全体が連絡を取り合って役割分担した集合体とする考え方
中医学では精(気)を生命の本質的な物質と考えている。遺伝特性があり、父母から受け継いだ精気を先天の精という。
人は生誕後は後天の精を生み出して先天の精を補わなければならない。
気は生命活動を維持する為の基礎となる物質。気の運動変化およびそれに伴って発生するエネルギー変換を気化という。
気化運動は生命の基本特性で気化がなければ生命は存在しない。人体内部の陰陽が消長し転化する事で起きる対立運動。昇降出入とも
中国医学では生命が物質であるという前提に立ち、生命を陰陽の対立と統一の運動として捉え、それが休まず変化発展するプロセスだと考えている。
<形神学説>
形は肉体、神という言葉には3つの意味がある。
- 自然界の物質を変化させる機能
- 人体全ての活動
- 精神や意識
心は外界の事物に反応して起こる変化にすぎない
形体が先にあって生命があり、そこから精神活動が生まれて生理機能が備わる。
神の物質的基盤は気血だが気血は形体をも構成する。臓腑の機能と気血運行は神に支配される
→形と神の相互依存、形与神倶
<疾病>
病邪は人体に侵入するとまず陰陽の平衡が破られ陰陽が失調して発症
正気が盛んであれば邪は発病させられない。
邪気が集まる所はそこの正気が必ず虚している
治未病という考え方
病気にかかってなければ・・・
- 心身を調えて養う
- 四季に合わせて寒暑に適応する
- 喜怒の感情を和らげて安らかにする
- 陰陽を調節して体調を調える
- 正気を高めて抵抗力を付ける
病気にかかれば・・・
- 早期発見
- 早期治療
- 進行を防ぐ
「名医は邪が皮毛にある内に治す。肌膚に至って治す医者は少し劣る。筋脈に至って治す医者は更に劣る。六腑に至って治す医者は更に劣る。五臓に至ってから治す医者は更に劣る。五臓に至ってから治療すれば半分は死に半分だけ助かる(素問・陰陽応象大論)」
<弁証観>
中医学では自然界全ての運動は陰陽の対立が統一される事で生じると考える。人体の各組織器官も全て統一体の中にあり連携し影響しあっている。そこから整体観を持った中医学の弁証法的観点が確立した。それに基づく臨床治療の成果が精神活動と生理活動の関係。
- 怒り→肝を傷つける
- 喜び→心を傷つける
- 思い→脾を傷つける
- 憂い→肺を傷つける
- 恐れ→腎を傷つける
中医治療学における弁証法的な観点は
標本の緩急・・・本は根本的な問題で変化しない、標は本の影響による問題で急激に変化
正治と反治・・・標本を区分し、治療の主と副の手順を決めたら治療し、陰陽を回復。正治は「寒なら熱し、熱ければ冷やし、虚していれば補い、実していれば瀉す」、反治はその逆。
症候と相反する性質を持った薬物で治療する。
異法方宜・・・同一疾病でも地域、気候、季節、生活、環境、職業、体質などの違いによって治療法が異なる
病治異同・・・個人差、季節、地域、進行具合、病機の変化、邪気と正気の力関係などに基づいて治療法を変える(同病異治)。異なる病証でも進行過程で同じ病機が生じれば同じ方法で治療する(異病同治)。
中国医学の特徴
<整体観念>
人体の生理活動の正常なバランスのためには、
- 臓腑組織がそれぞれの機能を発揮
- 臓腑間で補い合う共同作用と反発する制約作用
が必要。心の統率によって活発に行われる。
- 人体の陰陽の制約と消長、転化によって動的平衡を保つ
- 五行の相生相剋
が正常な生理活動に必要という事。
整体観から、局部の病変が整体全体に対する病理変化を考える事ができる。五官、形体、顔色、脈など
<人と自然界の統一性>
- 人体に対する季節と気候の影響
- 人体に対する昼夜朝晩の影響。1日も四季に例えられる
- 人体に対する地域の影響
季節的に多発する病や、地域性の疾病は地理的環境にも関係。
<辨証論治>(哲学的な五行弁証ではなく症候を分類する辨証。辨は分かつという意味)
中医学で病気を診断し治療する原則の事。
証・・・病気のある進行段階でその病理状態をまとめたもの。病変部位、原因、性質、邪正関係を含む。
辨証・・・四診(望、聞、問、切)で収集したデータから症状と徴候を分析。疾病の原因、性質、部位、邪正関係をはっきりさせ、どの証かを判断する。
論治・・・辨証結果に基づいて治療方法を決める。
中医学の治療・・・辨病(病気の分類)と辨証(症候の分類)
感冒で発熱悪寒頭痛などの表証が起きたとする。風寒感冒か風熱感冒かで証が異なるので、それを識別した上で辛温解表か辛涼解表でゆくか決める。
中医は病気の違いではなく「病機(症状を起こすメカニズム)」の違いに着目している。病機が同じなら同じ治療法、異なれば異なる治療法を用いる。
2.陰陽五行
陰陽五行とは、唯物論と弁証法の観点を備えた中国の古代哲学。
陰陽説と五行説が結びついたもの。
- 陰陽説・・・世界は物質であり、物質世界は陰陽という2つの気の相互作用で生み出され、発展変化していると考える
- 五行説・・・物質世界を構成する基本物質は木、火、土、金、水でありこれらが互いに生み出し合い制約し合う運動変化によって物質世界が作られていると考える
陰陽五行説の唯物論と弁証法的思想は結局は古代思想、現代の科学的唯物弁証法と同一視出来ない。
弁証唯物主義と史的唯物主義の観点から、陰陽五行説の使える部分のみ汲み取って、不要なものを棄てて医療に役立てる。
<陰陽説>
日光に背を向けて、日の当たる方を陽、日陰の方を陰としたのが最初
→やがて寒暖、上下、左右、内外、動静などの意味に派生
自然界で互いに関連する事物や現象を対立する2つとしてまとめたもの
→対立と統一の概念が含まれる
→医学に導入される
- 人体に促進、保温、興奮の作用がある物質や機能は陽
- 人体に凝集、保湿、抑制の作用を持つ物質や機能は陰
陰陽とは絶対的なものではなく比較したもの(相対性)。
→つまり、
- 陰陽は一定の条件で相互転化する
- 事物は陰陽に無限に分割できる
<陰陽説の内容>
陰陽が制約しあい消長しあった結果統一されて動態平衡が得られる→「陰平陽秘」
動態平衡が崩れると病気になる。
陰陽は互いに依存する。暑さが無ければ寒さもない→「互根互用」
気は陽に属し血は陰に属す。気は血を動かし、血は気の作用を発揮させる。
興奮は陽、抑制は陰。興奮が無ければ抑制も無い。
物質は陰、機能は陽。機能の伴わない物質は存在しないし、逆もない。
互根互用関係が崩れると人体の恒常性は損なわれ、酷いと「陰陽が分離して精気が絶えて死ぬ」。
<陰陽の消長平衡>
陰陽の対立と制約、互根互用は絶えず変化している→消長平衡
陰消陽長と陽消陰長を繰り返してバランスを取っている
→四季、昼夜
<陰陽の相互転化>
陰陽が一定条件で反対の性質に転化する→陰陽転化
事物の変化が物極に達した時に現れる→物極必反
- 陰陽消長→量的変化
- 陰陽転化→質的変化
四季の移り変わり(夏→秋)、高熱が続くと急に体温低下など(陽証→陰証)
<陰陽説の中医学への応用>
陽 | 陰 |
---|---|
上部 | 下部 |
体表 | 体内 |
背中 | 腹 |
四肢の外側 | 内側 |
六腑(表、精気を変化させ蓄えない) | 五臓(裏、蓄えて出さない) |
心、肺 | 肝、脾、腎 |
皮膚 | 筋骨 |
<人体の病理変化>
病気は陰陽の偏勝と偏衰によって発生する。
①陰陽の偏勝
陰勝と陽勝。陰または陽に邪が加わって正常な範囲を超えた為に起こる病変。偏盛。
- 陽勝則熱・・・陽邪によって起きた病気の性質
- 陽勝則陰病・・・陽勝の病変が身体の陰液を損傷させる事
陽勝は陽邪によって発病したもの。陽が偏勝→陰を傷つける→陰病
陰勝即寒、陰勝即陽病- 陰勝則寒・・・陰邪によって起きた病気の性質
- 陰勝則陽病・・・陰勝の病変が身体の陽気を損傷する事
陰勝とは陰邪によって発病したもの。陰が偏勝→陽を衰えさせる→陽病
①陰陽の衰微陰虚や陽虚は、陰陽のどちらかの正気が清浄より低下して起こる病変。
- 陽虚則寒・・・陽虚は身体の陽気が不足したもの。陰が優勢になり寒象が現れる。
- 陰虚則熱・・・陰虚とは身体の陰液が不足したもの。陽が優勢になり熱象が現れる。
陽損及陰、陰損及陽、陰陽倶損
陰陽いずれかが一定範囲を越えて損傷するともう一方も不足する。
- 陽虚があるレベルを超える→陰液を生み出せなくなる→陰虚の症状現れる
- 陰虚があるレベルを超える→陽気を生み出せなくなる→陽虚の症状現れる
→最終的に陰陽両虚の状態に(陽虚あるいは陰虚寄り)
③陰陽の転化一定の条件で、陽証→陰証、またはその逆に
<病気の診断に>
辨証の八項目のうち、陰陽は総綱(まとめ)
表、実、熱 → 陽
裏、虚、寒 → 陰
色艶、脈象などの陰陽
<病気の治療>
陰陽の失調を調整し、バランスを回復するのが基本原則
陰あるいは陽の偏勝だけで対する陰陽が衰えてない・・・損其有余(損其偏盛)の方法
相手の陰陽も衰えている・・・補う為に扶陽か益陰の法
損其有余は実証に対する治療原則、つまり実者瀉之(実すれば之を瀉す)
- 陽勝則熱・・・実熱証なので熱の治療は寒で行う(熱者寒之)
- 陰勝則寒・・・寒実証なので寒の治療は熱でおこなう(寒者熱之)
陰虚で陽が抑えられず陽亢となった虚熱証・・・寒涼薬物で熱を追い出さない!陰を滋養して水で火を抑制する(陽病治陰)
陽虚で陰が抑えられず陰盛となった虚寒証・・・辛温発散薬物で陰寒を追い出さない!陽を助けて陰盛を抑える(陰病治陽)
余っていれば瀉し、不足していれば補うのが治療原則
②薬物の性能を分類薬物は一般に気(性)、味、昇降、浮沈によって性能が決まる
薬性・・・寒、熱、温、涼の4つ(四気)
五味・・・辛、甘、酸、辛、鹹
昇降浮沈・・・上昇、下降、浮いて散らす、重く鎮める
<五行説>
- 木・・・木曰曲直(もくえつきょくちょく)。成長、昇発(上に昇る)、条達(伸ばす)、伸びやか
- 火・・・火曰炎上(かえつえんじょう)。温熱、上昇する
- 土・・・土爰稼穡(どえんかしょう、爰は「ここに」)。稼穡(種を撒いたり収穫)。生み出す、載せる、受納
- 金・・・金曰従革(きんえつじゅうかく)。従革(変革)。清潔、粛降、収斂
- 水・・・水曰潤下(すいえつじゅんか)。寒涼、湿らせる、下に向かう
五行とはその特性によって事物をまとめたり分類するための物。
ある事物の性質や作用が五行に似ていればその五行に帰属させる。
自然界 | 五行 | 人体 | ||||||||||||
五音 | 五味 | 五色 | 五化 | 五気 | 五方 | 五季 | 五臓 | 六腑 | 五官 | 五体 | 五志 | 五声 | 五動 | |
角 | 酸 | 青 | 生 | 風 | 東 | 春 | 甲乙木 | 乙木肝 | 甲木胆 | 目 | 筋 | 怒 | 呼 | 握 |
徴 | 苦 | 赤 | 長 | 暑 | 南 | 夏 | 丙丁火 | 丁火心 | 丙火小腸 | 舌 | 脈 | 喜 | 笑 | 憂 |
宮 | 甘 | 黄 | 化 | 湿 | 中 | 長夏 | 戊己土 | 己土脾 | 戊土胃 | 口 | 肉 | 思 | 歌 | 噦 |
商 | 辛 | 白 | 収 | 燥 | 西 | 秋 | 庚辛金 | 辛金肺 | 庚金大腸 | 鼻 | 皮毛 | 憂 | 哭 | 咳 |
羽 | 鹹 | 黒 | 蔵 | 寒 | 北 | 冬 | 壬癸水 | 壬水腎 | 壬水膀胱 | 耳 | 骨 | 恐 | 呻 | 慄 |
※噦(エツ)はしゃっくり、えずき
<生剋と乗侮>①生剋と生化
- 相生・・・ある事象が別の事象を促進して助長したり育てたりする働き
- 相剋・・・ある事象が別の事象の生長や働きを抑制したり制約したりする働き
相生と相剋の関係により自然や生理のバランスが保たれる→制則生化
②乗侮
相乗
乗(強者が弱者を虐げる)。剋している一行が抑えすぎる事により異常な相剋反応が起こる事。
相乗には2つのケースがある。
- ある一行が強くなりすぎて剋されている行が弱体化し、五行生剋の抑制と生化が異常となるケース(例:木乗土)
- ある一行が弱り、抑制に耐えられなくなってさらに衰弱するケース(例:土虚木乗)
相侮(反侮)
一行が強くなりすぎて、本来その行を剋していた一行が抑えきれなくなり逆にバカにされる事(反侮、反剋)。
相乗と相侮が同時に起こる事がある。
例えば木が強すぎると乗土だけでなく侮金状態にもなる。
①五臓の生理機能を説明
内臓を五行に分類し五行の特性によって五臓の生理機能を説明する
②五臓間の相互関係を説明
五臓を五行に分類する事で五行生剋の抑制と生化の理論によって臓腑間の生理機能を説明
- 五臓の資生関係・・・肝が心を生むなど、五行の相生理論を使って五臓間の援助関係を説明
- 五臓の制約関係・・・「主(制御、相剋の意味)」。五臓が互いに制約する関係を説明
五臓の発病や伝変は全て五行の生剋乗侮によって説明できる。
①診断に利用
内臓に病があれば体表の対応する組織や器官に反応が起こり、色艶や声、形や脈などに異常な変化が現れる。五臓は五色や五音などとともに五行と分類できるのでそれに基づいて診断できる。
②治療に利用
生剋乗侮の法則に基づいて、五臓の相互関係を調節したり、伝変する先を事前に丈夫にしておき伝変を防ぐ等。
3.蔵象
蔵象学説とは、人体の臓腑や組織、器官の生理機能と病理変化、それらの相互関係、臓腑組織器官と外部環境の相互関係を研究した学説。
張景岳「象とは形象なり。蔵は内にあって形は外から見える。だから蔵象という」(類経)
臓腑・・・臓、腑、奇恒の腑
- 臓(五臓)・・・気血を化生し精気を貯蔵する。心、肺、脾、肝、腎
- 腑(六腑)・・・受盛(水殻の気を受ける)と水穀の伝化。胆、胃、小腸、大腸、膀胱、三焦
- 奇恒の腑・・・水穀と接しない密閉器官だが精気を貯蔵する。脳、髄、骨、脈、胆、女子胞(子宮)
満と実
- 五臓は精気を貯蔵する→満だが実にはならない
- 六腑は精気を貯えない→水殻が入ると実になるが満にはならない
臓腑は陰陽で分けて表裏のワンセットにする。
- 心→小腸
- 肝→胆
- 脾→胃
- 肺→大腸
- 腎→膀胱
- 心包→三焦
→経絡循行が陰経と陽経で向かい合い、属絡関係がある
五臓は九竅(きょう、小さい穴)と結びついて整体となっている
五臓は精神活動とも関係がある。
心
血脈と意識を管理する。
<心の生理機能>
①主血脈
血と脈(血脈)の管理を行う。血は全身を巡り滋養作用を、脈は営気や血液が正常に機能するかどうかに関係し血液の運行に影響する
②主神志
心主神明、心蔵神とも。神には広義の神(外部に現れる生命活動全て)と狭義の神(心が支配する感情)がある。これが異常になると精神や意識がおかしくなり不眠、多夢、情緒不安定、譫妄、反応鈍い、健忘、元気がない、昏睡など
<心の志、益、体と九竅>
①在志為喜
心の志(喜怒憂思恐のこと。五臓に配属する)は喜び。
②在液為汗
汗(津液が陽気により蒸発し気化したものが玄府から排出されたもの)。汗の排泄には衛気が腠理を開閉する作用も必要。
③在体合脈、其華在面
血管は全て心に属する。心の生理状態が顔の華(色艶)に表現される。
④在竅為舌
舌に心の竅(開竅する場所)がある。心の生理機能に異常があれば味覚異常や上手く喋れない等が発生する
膻中とも。心臓を包む外側の被膜。蔵象学説では心の外郭で心臓を保護すると考える。
肺高い位置にあるので華蓋、寒熱に弱いので嬌臓とも。魄が存在する場所。
気を支配し呼吸を管理、宣発と粛降、水道を通調、百脈を集めて治節し心臓を補佐して気血の運行を調節する。
<肺の生理機能>
①主気、司呼吸
体の気と呼吸の気を司る。
- 肺主一身之気・・・全身の気は全て肺に属し肺が管理する。宗気は呼吸した清気と脾胃が運化した水穀の気が結合して出来るので宗気の生成にも関係。
- 肺主呼吸之気・・・肺がガス交換により清気を吸入し濁気を吐いている
②宣発と粛降
- 宣発・・・広く行き渡らせる、発散させるという意味。身体中に広がる肺気の作用
- 粛降・・・綺麗にする、下降するという意味。肺気が腎に降りたり痰を吐いて綺麗にしたり
肺主宣発
- 肺の気化により濁気を排出
- 脾によって運ばれた津液や水穀の精微を肺気の宣発作用に載せて全身に散布し皮毛まで運ぶ
- 衛気を宣発する作用で腠理の開閉を調節し津液を汗として排出
肺主粛降
- 自然界の清気を吸入
- 清気、脾が運んできた津液や水穀の精微を下に向けて散布
- 肺や呼吸道の異物を吐き出して綺麗にする
③通調水道
通調(流通と調節)、水道(水液の運行排泄の通路)。水液の散布・輸送・排泄は宣発と粛降によって調節されている。
④朝百脈、主治節
肺朝百脈・・・朝(集まるという意味)。全身の血液が経脈から肺に集められガス交換が行われ再び送り出される事。
治節・・・治めたり調節する事。以下の4つがある
- 肺の呼吸運動で人が規則的に呼吸する事
- 呼吸によって全身の気が動かされる事
- 気の昇降出入の調節により心の働きを助け血液の運行を促し調節する
- 肺の宣発粛降により津液の散布・運行・排泄を治める
(以下詳細は追記予定)
脾
中焦にあり横隔膜の下に位置する。五行では土
生理機能・・・運化と昇清、血液の統摂
足の太陰肺経と足の陽明胃経・・・脾と胃で属絡関係にある 脾胃は表裏
脾胃は消化系統の主要な臓器、消化活動は脾と胃によって行われる
生命活動の維持、気血津液の製造・・・脾胃が運化した水穀の精微が原料→後天の本と呼ぶ
- 口に開竅
- 状態は口唇に現れる
- 志は思い
- 液は涎
- 肌肉と四肢を管理
(以下詳細は追記予定)
肝腹部に位置し、横隔膜の下で右脇の内部にある
肝は
、血の蔵、筋の元締め
五行では木、動と昇を支配する
生理機能は疏泄と蔵血
足の厥陰肝経と足の少陽胆経・・・肝と胆で属絡関係
- 目に開竅
- 状態は爪に現れる
- 志は怒り
- 液は涙
- 筋を管理
(以下詳細は追記予定)
腎
腰部に位置し、脊柱の両側に1つずつある→腰者、腎之府(素問・脈要精微論)
腎には先天の精が貯えられている。→腎は先天の本と呼ばれる
五行では水→精を蓄え生長と発育、生殖と水液代謝を管理
足の少陰腎経、足の太陽膀胱経・・・腎と膀胱で属絡関係、腎と膀胱で表裏
- 耳と両陰に開竅
- 状態は毛髪に現れる
- 志は恐れと驚き
- 液は唾
- 骨を管理し髄を生み出す
(詳細は追記予定)
命門位置や生理機能に様々な見解がある
- 右腎が命門とする説・・・難経から始まった
- 両腎とも命門とする説・・・滑寿、虞搏が主張
- 両腎の間を命門とする説・・・趙献可が主張
- 命門を腎間の動気であるとする説・・・孫一奎が主張
現代では腎陽は命門の火であり、腎陰は張景岳のいう命門之水であると考えられている
腎陰と腎陽・・・真陰と真陽、あるいは元陰と元陽
古代の医者が命門と呼んだのは腎中にある陰陽の重要性を強調したものであると考えられる
六腑・・・胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦の総称
六腑の特徴・・・飲食物を腐熟して消化し、糟粕に伝化させる(伝化:飲食物の消化吸収と糟粕の排泄)
六腑は変化させて送り、貯えない→実となっても満にならない
飲食物が消化吸収されて排出されるまでの7つの関門・・・七衝門
- 口唇・・・飛門(飛は扉の意)
- 歯・・・戸門(しもん)
- 会厭(ええん、食道と気管の分かれる所)・・・吸門
- 胃の入口・・・賁門(ふんもん)
- 胃の出口・・・幽門
- 大腸と小腸の間・・・闌門(らんもん、闌は阻む意)
- 肛門・・・魄門
胆は奇恒の府でもある。
胆汁・・・肝の精気が化生したもの
胆汁の化生と分泌・・・肝の疏泄機能がコントロール
胆の生理機能・・・胆汁の貯蔵と分泌
胆汁は消化を助ける→六腑
胆自体は伝化せず精汁を貯えているだけ→奇恒の府
胃脘(いかん)とも呼ばれ上中下の3つに分けられる
- 上部・・・賁門を含めて上脘
- 中部・・・胃の胃体の部分で中脘
- 下部・・・幽門を含めて下脘
胃の生理機能は水穀の受納と腐熟
胃は内容物を降ろして和(正常)である
幽門で胃の下口で繋がり、闌門で大腸の上部と繋がる
小腸の生理作用:
- 受盛(胃から糟粕を受けとる)と化物(消化)
- 清濁を選り分ける
大腸
上部は闌門で小腸と繋がり、下部は肛門(魄門)と繋がる
小腸が清濁を分けた後の食物カスを受け取りその水分を吸収(糟粕→糞便)して肛門から排泄する
大腸の伝導(上に接し下に伝える)・・・胃の降濁作用の延長、肺の粛降や腎の気化とも関係
膀胱
下腹の中央に位置し尿を貯める器官、生理機能は尿を貯めたり排出する
尿は津液が変化したもの
腎の気化作用で尿が作られ膀胱に送られる
膀胱の貯尿と排尿は腎の気化作用で行われる
膀胱気化・・・腎の蒸留気化に隷属したもの
膀胱の病変・・・頻尿、尿意切迫、尿痛、尿が出にくい、尿がポタポタ出る、排尿困難、遺尿、失禁
膀胱の病変は腎の気化機能に関係
三焦
上焦、中焦、下焦の総称
具体的な概念は論争があった
生理機能・・・諸気の管理と水道の通行
現在の学者は胸腹腔を1つの中空の腑としその全てを三焦と考えている → 最大の臓腑なので孤府と呼ぶ
どんな臓器が具体的な三焦なのか?× → 生理的・病理的意味を知る事が大事
(詳細は追記予定)
<奇恒の府>
脳、髄、骨、脈、胆、女子胞の6つ
- 中空の器官が多く腑と似ているが飲食物を消化したり排泄する管ではない
- 精気を貯えたりなど臓の生理機能と共通する
→奇恒の府と呼ぶ
胆以外は表裏もなく五行もないのが五臓六腑との違い
(以下詳細は追記予定)
<臓腑同士の関係>
心と肺
心と脾
心と肝
心と腎
肺と脾
肺と肝
肺と腎
肝と脾
肝と腎
脾と腎
4.気血津液
気、血、津液…人体を構成する基本物質、臓腑や経絡の組織器官が生理活動する為の物質的基盤
- 気・・・常に動いているエネルギー旺盛な精微物質
- 血・・・血液のこと
- 津液・・・身体にある正常な水液
- 臓腑や経絡などの組織器官・・・生理活動に必要なエネルギーを気、血、津液から得ている
- 気、血、津液・・・臓腑や経絡などの組織器官が正常に活動する事によって作り出される
さらに人体を構成する基本物質として「精」がある
- 狭義の精・・・生殖の精
- 広義の精・・・気、血、津液や飲食物から摂取した栄養物質を含む精微な物質全てを指す(精気)
5.経絡
経絡学説とは、経絡系統の生理機能、病理変化および経絡系統と臓腑の相互関係を研究した学説。
古人が
。
蔵象学説、気血津液理論、病因学説などを経絡学説と組み合わせるとほぼ完全に生理機能や病理変化を説明でき、診断や治療方針を決める事ができる
→経絡学説を重視
6.病因と発病
臓腑や組織、人体と外界環境
→常に対立と統一があり、絶えず対立を作り出す
→対立を解決し続ける事で相対的な動態平衡が維持され、生理機能が正常に保たれる
→動態平衡が何らかの原因で破壊され自分で調節しても回復できない→発病
7.病機
正邪闘争、陰陽失調、気血の異常、内生五邪、臓腑経絡の機能異常など、病理変化の一般法則について。
病機・・・疾病が発生、進行、変化するメカニズム
病邪が身体に入る
→身体の正気が邪気を攻撃して正邪闘争が展開される
→身体の陰陽バランスが崩れたり、臓腑や経絡の働きが失調したり、気血の機能が乱れたり、局部に様々な病理変化が発生する
→ 病気の種類がどれだけ多く、症状が複雑でも、それぞれの疾病や各々の症状には独自の病機がある
8.予防と治療の原則
予防・・・一定の措置を講じて疾病の発生や蔓延を防ぐ事
中医学では古くから予防を重視・・・「内経」の「治未病」の言葉
治未病・・・発病していない時に予防するという意味と、発病したものが進行しないようにするという意味
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